人類の歴史において薬は健康状態を良好に保ち、不調を改善させるものとしてとても重宝されてきました。ただし昔は、食品の一種として薬は扱われていたようで、「この食べ物を食べたら疲れが取れる」「元気がみなぎる」など、栄養価の高い食べ物が薬と見なされていたといいます。しかし、中国から仏教が伝わる頃には、医学的な見地に沿って薬が研究されるようになりました。当時の仏教は儀式に用いる香草を医療のために使っていたそうで、そこから薬草の存在が認知され、薬の研究が進みはじめたのです。
そのため、古代日本においては、薬といえば中国や朝鮮から輸入された薬草を指すのが一般的でした。そして、仏教と共に薬草の多くが日本全国に広がり、薬草同士を掛け合わせることで薬が作られるようになったのです。ただし、日本で薬草が本格的に栽培されるようになったのは、農業技術が進歩した江戸時代になってからであり、それまでは、薬といえば一般庶民の手が届くものではなかったため、病気になっても回復は神頼みだったようです。
しかし、西洋医学が日本に伝わり、医療の質がそれまでとは比べ物にならないくらい大幅に向上したのを機に、薬は流通しやすくなったため、お金さえ払えば入手も容易になりました。とはいえ、薬の知識や服用の際の注意点などが周知されるようになったのは明治時代以降になってからであり、「薬はお茶と一緒に飲まない」「日光や湿気を避けて少量ずつを使い切る」「使用期限がある」などが当たり前のこととして知られるようになったのは、つい最近なのです。